認知症予防は まず睡眠の見直しから

~夜の休息が拓く予防対策~

 


 

2010年代前半の認知症の有病率は15%程度、Alzheimer病(AD)は認知症疾患の67.6%と言われており、今後さらに増加が予測されています。認知症患者は2025年に700万人を突破し、65歳以上の5人に1人と言われています。(神経学会 認知症疾患診療ガイドライン2017)

近年、認知症と睡眠障害との間の関係が注目されています。本記事では、睡眠障害とアルツハイマー型認知症の関連についてお話しいたします。

 

 

 

1.アルツハイマー病と睡眠障害

 

 アルツハイマー病は認知症の中で最も多く、認知症疾患の67.6%と言われており、今後さらに増加が予測されています。物忘れが症状の中心で、ゆっくりと進行する病気です。近年、レカネマブという新しい薬の登場で注目されていますが、アルツハイマー病ではアミロイドβタンパク質やタウタンパク質の脳内での蓄積が関連すると考えられています。記憶障害が現れる数十年前からアミロイドβタンパク質、次いでタウタンパク質の蓄積が始まり、約10年以上遅れて脳萎縮、その後に認知機能低下が始まるといわれています[1]。

 

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 アルツハイマー病の発症や、アミロイド、タウの両タンパク質の蓄積と睡眠が関連していると最近言われています[2][3]。例えば、睡眠に問題がある人はアルツハイマー病の発症のリスクが高いことや、実際にアミロイドやタウの蓄積が起きやすいことがわかっています。

また、体内時計のリズムが崩れたり、日中の強い眠気がある人は、認知症発症のリスクが高いこと、アルツハイマー病を悪化させることもわかっています[4][5][6]。

 

 

 

 

2.認知症患者ではどんな睡眠障害がおきるのか

 

認知症になると、71%で睡眠障害がみられると言われています。この報告では、軽度の認知症患者では、不眠症や、睡眠中の下肢けいれん、日中の過度の眠気、むずむず足、夜間の寝言や睡眠中の動き等が報告されています。


また、睡眠障害は、気持ちの落ち込みや不安とも関係しています[7]。これらは、体内時計の乱れが影響を与えていると言われています。体内時計が乱れていると、夜の睡眠の問題だけではなく、朝は元気が出ない、長い昼寝をしてしまう、夜になると活動的になるといったことの方が顕著になることがあるので、このような症状に気づいたら注意が必要です。また、これらの睡眠障害は認知症の周辺症状(興奮、徘徊など)の出現リスクを高めるといわれており、注意が必要です[8]。昼夜逆転も問題になりやすい症状かと思われます。

 

 

 

 

3.睡眠障害にはどうすればいいのか

 

まず、認知症の患者さんでは脳が活性化した状態を保つことが発症、進行予防に重要です。日中の頭や身体の運動、正しい食生活と併せて、質の良い睡眠が必要です。十分な睡眠時間を確保することで、日中の活動性を保ち、アミロイドやタウの蓄積のリスク、認知症の発症の可能性を減らすことができます。


実際に良質な睡眠時間をとるにはどうすればよいでしょうか。まず、決まった時間に睡眠をとる習慣をつけること、朝に太陽の光を浴びるようにすることで体内時計を整えるようにすることが重要です。そのために夜ふかしを控えたり、寝る前の食事や入浴、運動を控えたり、大量の飲酒や喫煙を控えることも重要です。寝る前のTVやスマホ、夕方17:00以降の緑茶やコーヒーといったカフェイン入りの飲料を避けるようにすることもよいといわれています。他に自分に合った枕にすることや、アロマの試みもよいかもしれません。

 

ときに、内服が有効なこともあります。注意しなければいけないこととして、従来の睡眠薬はふらつきや翌朝への眠気の持ち越しといった副作用、なかなかやめられなくなる依存性があると言われています。特に高齢者では転倒の原因にもなるので注意が必要です。最近では、ふらつきや依存性の少ないオレキシン系と呼ばれる睡眠薬も登場してきており、高齢者での主流になってきています。また、メラトニンを調整するような、体内時計を調整することの可能な薬剤も登場してきており、副作用の少なさと相まって徐々に広がってきています。これらを用いたり、複数組み合わせることで個々にあった睡眠障害を改善する方法を見つけることが大切です。

 

 

 

 

4.まとめ

 

このように、アルツハイマー病を中心とする認知症と睡眠障害には相互の関係があります。適切な治療やアドバイスを受け、実践することで症状が改善することもあります。不眠や日中の眠気等、悩んでいる場合には病院の受診をすることも役に立つことがありますので、その場合には受診の検討をしてみるのもよいかと思われます。

 

 

 

 

 

 

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寄稿:国立長寿医療研究センター 医師 横井 克典(よこい かつのり)

 

横井克典先生の略歴

所属 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 脳神経内科部

 

〈経歴〉

2010/3 名古屋大学医学部医学科 卒業

2010/4 安生更生病院 初期研修医

2012/4 安生更生病院 神経内科

2017/10 春日井市民病院 神経内科

2018/3 名古屋大学大学院医学系研究科 神経内科学

2020/4 国立長寿医療研究センター 脳神経内科部

 

〈所属学会・専門医〉

日本内科学会(内科認定医・総合内科専門医)

日本神経学会(神経内科専門医・指導医)

日本てんかん学会(てんかん専門医)

日本臨床神経生理学会(脳波分野専門医)

日本認知症学会(認知症専門医)

 

〈研究分野〉

てんかん、認知症、パーキンソン病

 

参考文献

[1]R.J. Bateman, C. Xiong, T.L.S. Benzinger, A.M. Fagan, A. Goate, N.C. Fox, D.S. Marcus, N.J. Cairns, X. Xie, T.M. Blazey, D.M. Holtzman, A. Santacruz, V. Buckles, A. Oliver, K. Moulder, P.S. Aisen, B. Ghetti, W.E. Klunk, E. McDade, R.N. Martins, C.L. Masters, R. Mayeux, J.M. Ringman, M.N. Rossor, P.R. Schofield, R.A. Sperling, S. Salloway, J.C. Morris, Clinical and Biomarker Changes in Dominantly Inherited Alzheimer’s Disease, N. Engl. J. Med. 367 (2012) 795–804. https://doi.org/10.1056/NEJMoa1202753.

[2]Y. Wen, S. Schwartz, A.R. Borenstein, Y. Wu, D. Morgan, W.M. Anderson, Sleep , Cognitive impairment , and Alzheimer ’ s disease : A Systematic Review and Meta-Analysis, Sleep. 40 (2017) 1–18.

 

[3]S.M. Romanella, D. Roe, E. Tatti, D. Cappon, R. Paciorek, E. Testani, A. Rossi, S. Rossi, E. Santarnecchi, The Sleep Side of Aging and Alzheimer’s Disease, Sleep Med. 77 (2021) 209–225. https://doi.org/10.1016/j.sleep.2020.05.029.

[4]G.J. Tranah, T. Blackwell, K.L. Stone, S. Ancoli-Israel, M.L. Paudel, K.E. Ensrud, J.A. Cauley, S. Redline, T.A. Hillier, S.R. Cummings, K. Yaffe, Circadian activity rhythms and risk of incident dementia and mild cognitive impairment in older women, Ann. Neurol. 70 (2011) 722–732. https://doi.org/10.1002/ana.22468.

[5]Y. Leng, E.S. Musiek, K. Hu, F.P. Cappuccio, K. Yaffe, Association between circadian rhythms and neurodegenerative diseases, Lancet Neurol. 18 (2019) 307–318. https://doi.org/10.1016/S1474-4422(18)30461-7.

[6]K. Astara, A. Tsimpolis, K. Kalafatakis, G.D. Vavougios, G. Xiromerisiou, E. Dardiotis, N.G. Christodoulou, M.T. Samara, A.S. Lappas, Sleep Disorders and Alzheimer’s Disease pathophysiology: the role of the Glymphatic System. A Scoping Review, Mech. Ageing Dev. 217 (2023) 111899. https://doi.org/10.1016/j.mad.2023.111899.

[7]A. Rongve, B.F. Boeve, D. Aarsland, Frequency and Correlates of Caregiver‐Reported Sleep Disturbances in a Sample of Persons with Early Dementia, J. Am. Geriatr. Soc. 58 (2010) 480–486. https://doi.org/10.1111/j.1532-5415.2010.02733.x.

[8]Q.P. Zhou, L. Jung, K.C. Richards, The management of sleep and circadian disturbance in patients with dementia, Curr. Neurol. Neurosci. Rep. 12 (2012) 193–204. https://doi.org/10.1007/s11910-012-0249-8.